あらすじ・内容紹介
「整数解を問う」--このただ一つの制約が、方程式に汲めども尽きぬ深さを与えます。実数なら易々と解ける方程式が、整数という飛び飛びの世界では、あるときは一つも解をもたず、あるときは無限の解が美しい規則に従って整列し、あるときは有限個の解だけが宝石のように散らばります。本書『不定方程式の最高施設』は、この不思議さを出発点に、x+2y=5 という一次方程式から、平方剰余の相互法則、ガウス整数と二平方和、連分数とペル方程式、代数的整数論とイデアル、p進数とハッセ原理、楕円曲線と有理点、ディオファントス近似、そしてヒルベルト第10問題の決定不能性という現代数論のフロンティアまでを、一続きの物語として描きます。全10編32章、初等的な計算から二十世紀数学の最深部までを、一冊で読み通せる構成です。
本書は自己完結しています。集合・写像・帰納法・環・体・多項式といった前提は、すべて本書内(とくに第2章)でゼロから整えますので、事前知識は要りません。特色は三つ。第一に、定義を述べる前に「なぜその概念が必要か」を必ず語り、随所に置いた〔情緒〕で、数学者が頭の中で見ている景色を共有すること。第二に、ピタゴラス数・ペル方程式・フェルマーの最終定理といった一行で述べられる問いを道しるべに、それを解くために生まれた道具ーー互除法・合同・ガウス整数・イデアル・p進数・楕円曲線ーーが互いに響き合う様子を描くこと。第三に、【定理】【命題】にはすべて証明を与えること(発展的で深い定理は〔研究〕として思想と概略を示します)。証明は方針を先に示してから本論に入り、例と反例で「なぜその条件が要るのか」を確かめます。
数学の本を読むことは、登山に似ています。定義という足場を一つずつ固めながら、定理という岩壁を登っていきます。頂上から見える景色ーー一本の直線上の格子点から始まった旅が、相互法則とイデアル論を経て、楕円曲線とヒルベルト第10問題に至る瞬間ーーは、その苦労に十分に値するものです。高校数学を終え、大学で本格的に整数論に取り組む方、そして数論の美しさに惹かれるすべての方へ。割り算という最も素朴な操作から、決定不能性という最も深い地平まで、整数の奥に構造を見抜く眼を、ご一緒に養いましょう。