あらすじ・内容紹介
本書は、高校で学ぶ「整数の性質」から出発して、現代数論の最前線までを、ひと続きの道として案内する一冊です。
整数論には、他に類を見ない特徴があります。問題を述べるのは中学生でもできるのに、解くのは人類の総力を挙げても足りないことがあります。素数が無限にあることは二千三百年前に決着したのに、双子素数が無限にあるかは今も誰も知りません。ピタゴラス数は高校生にも書き尽くせるのに、指数を三に変えた途端、証明にはオイラーが要りました。この落差こそが整数論の魅力だと思っています。
本書は全九編・二十八章、約六百ページです。前半では、除法の定理・ユークリッドの互除法・素因数分解の一意性を大学数学の精密さで組み直し、合同式、フェルマーの小定理、原始根、平方剰余の相互法則へ進みます。後半は、ペル方程式と連分数、無限降下法、ガウス整数と二平方和定理、イデアルと類数、ゼータ関数と素数定理、そして楕円曲線・p進数・保型形式まで到達します。最終編では、素数判定と素因数分解のアルゴリズム、RSAと楕円曲線暗号、そして未解決問題の現在地を扱います。
執筆にあたり、三つのことを課しました。
第一に、他書を参照せずに読み通せること。前提は高校の数学1・A程度。集合と写像の言葉も、環や体の考え方も、必要な箇所で一から整備します。
第二に、「なぜそう考えるのか」を言語化すること。定義を述べる前に必ず動機を語り、直観を共有する囲みを百八十五箇所に置きました。なぜ素因数分解の一意性という当たり前を証明するのかーーその答えは、一意性が壊れる世界を第六編で見たとき、はじめて腑に落ちるはずです。
第三に、抽象を必ず具体例で着地させること。例を二百四十四個、うち反例を五十三個収めました。仮定を外すと何が壊れるかを、そのつど数値で確かめます。証明を与えない定理には「本書では証明しない」と明示し、何が証明され何を認めたかを読者が常に把握できるようにしました。
数論は、役に立つかどうかを考えずに積み上げられてきた学問です。そのひとつひとつが、いま世界中の通信を守っています。二千年を超えて受け継がれてきたこの灯を、次の誰かへ手渡したいーーそう願って書きました。