あらすじ・内容紹介
統計モデルとは、確率単体の中に住む代数多様体ですーー本書は、この一行に込められた壮大な原理を、確率論の初歩から最先端まで一気に描き切る、類を見ない規模の代数統計学の体系書です。
独立性とは、確率行列の階数が1であること、すなわち2×2小行列式が消えること、それはセグレ多様体という図形にほかなりません。統計の問いーー独立性、条件付き独立、混合、推定、検定ーーが、代数幾何の問いーー多様体、イデアル、階数、射影ーーへと翻訳されます。そして、その翻訳のすべてを束ねる中心に、十分統計量を表す一枚の整数行列が、静かに座っているのです。
本書は、二つの岸を固めてから橋を架ける建設に似ています。第1〜3編で「確率・統計」の岸を築き、正確検定の困難という、代数を呼び寄せる問いに至ります。第4〜8編で群・環・イデアル・代数幾何・グレブナー基底を一から組み上げ、第9・10編で二つの岸が結ばれーー統計モデルが多様体になり、十分統計量がトーリックイデアルになりーー橋が架かります。第11〜17編では、マルコフ基底による正確検定、グラフィカルモデル、最尤推定の代数幾何、凸多面体、テンソル、トロピカル幾何、情報幾何という、さらに広いフロンティアへと道を延ばします。抽象に迷いそうになったら、分割表と多項式という二つの「実家」に、いつでも帰ってくることができます。
代数の予備知識は、一切仮定しません。統計から来た読者も、代数から来た読者も、最後まで自立して読み通せます。全57章・252の定理を一つひとつ厳密に証明しながら、各所に置いた〔情緒〕の囲みが、記号の奥に潜む「なぜ」と「美しさ」を、静かに語りかけてきます。なぜ深層学習は過学習せずに汎化するのかーー特異学習理論がふれるその深い謎まで、応用はゲノミクス、系統発生学、因果推論、機械学習へと、いまも広がり続けています。
確率モデルの背後に潜む代数的構造を見抜く目を養うこと。統計の問いを幾何へ翻訳し、代数の道具で解き、ふたたび統計の言葉へと訳し戻すーーその往復の作法を、確かな手応えとともにお届けします。一行の数式の奥に世界の構造が立ち上がる、その息をのむ瞬間を、ぜひ味わってください。数学を学ぶことの最も深い喜びが、この一冊に込められています。