あらすじ・内容紹介
「日本で働いて朝鮮にもどってきたら官職につくことができる」と村のえらい人にだまされて朝鮮から山口県の長生(ちょうせい)炭鉱に引っぱられてきた少年カンジェ。この炭鉱は海底にあって水もれがひどく、坑道の奥の危険な採掘現場ほど朝鮮人が多く働かされていた。
朝鮮人労働者は食べ物も少ししか与えられず、狭い部屋に大ぜいで押しこめられ、一日中監視される。いつも見張りから怒鳴られ、「きたない朝鮮人め」とムチでたたかれる毎日。
カンジェは坑内のよごれた水を飲んでコレラにかかるが、死んだと判断されて焼き場へ運ばれる寸前に、親友チョンソクのおかげで奇跡的に息をふき返す。
国は戦争遂行のための国策として石炭の増産を命じ、長生炭鉱でも厳しいノルマが課されたため、さらに無茶で危険な労働が強いられるようになっていく。カンジェは捕まって殺されることも覚悟でチョンソクと逃亡を企てるが、失敗。チョンソクは行方知れずになり、自身は半殺しのリンチを受ける。
その後再び仕事に復帰させられるが、安全を無視して掘り続けられた炭鉱は、ついに1942年2月3日、天井が崩壊し、180名以上の労働者を坑内に閉じ込めたまま、海底に水没してしまう…。
たまたまこの事故の時に坑内にいなかったカンジェは、その日のうちに二度目の逃亡をはかり、今度は成功。そして製鉄所で働くことになる。しかしここでも朝鮮人への差別と虐待は変わらなかった。
カンジェは行方知れずの親友チョンソクを探すが、なかなか見つからない。そんな時、親切な日本人の山田との出会いから道が開け、チョンソクが長崎の造船所にいることがわかる。しかしアメリカが長崎に落とした原爆は、チョンソクのいた造船所にもはかりしれない被害を与えていたーー。
作家は「わたしはこの物語を通して、国を失い、無念にも引っぱっていかれ、みじめに生を終えた数万の徴用者たちの魂をなぐさめ、さらに一歩進んで戦争の惨状を告発したかった。祖国へ帰れず、見知らぬ土地をさまよう多くの魂を、少しでもなぐさめてあげたかった」と書く(作者あとがきより)。本作は、実際に起きた長生炭鉱での水没事故当時働いていた生存者の一人、金景鳳(キム ギョンボン)氏の証言を基に創作された、胸をうつ鎮魂の物語。
巻末に、未だ海底に眠る事故犠牲者の遺骨収容に取り組んでいる市民団体の代表・井上洋子氏(長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会 代表理事)と、ジャーナリストの布施祐仁氏の解説を付す。
1 花ずもう
2 つむじ風
3 船酔い
4 みな、気をつけ!
5 長生炭鉱
6 海底のもぐら
7 逃亡者は死刑だ
8 怒りが怒りをよぶ
9 九死に一生を得る
10 1回目の脱出
11 最後の勇気
12 地獄の前奏曲
13 巨大な水柱
14 製鉄所で
15 山田さん
16 長崎造船所
17 むごたらしい災難
18 くる者と去る者
19 チョンソク
20 ああ、五六島
*
作者あとがき 不幸な魂をなぐさめる
訳者あとがき
解説1 井上洋子(長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会 代表理事)
解説2 布施祐仁(ジャーナリスト)