あらすじ・内容紹介
観光文化と時局との関係性のなかに浮かぶ、新たな谷崎文学の批評性。「古典回帰」とされる1930年代以降の谷崎文学の可能性を問う。
「一遍その土地が世間へ知れると、都会の客が我も〳〵と押しかけるやうになり、地元でもいろ〳〵な宣伝や設備をやり出す結果、本来の特色が失はれてしまふことを恐れるから」(谷崎潤一郎「旅のいろいろ」)
関西移住を一つの契機として、「古典回帰」と称される1930年代以降の谷崎潤一郎の作品の数々。そのように形づくられた枠組は、変貌する社会から背を向けて独自の美的世界に耽溺していったという谷崎像を生み出した。
そうしたイメージでくくられやすい戦時下の谷崎のテキストを総体的にとらえながら、時局との不穏な結びつきのもと発展しつつあった当時の日本社会における観光文化を鍵に、新たな谷崎文学の可能性を鮮やかに描く。
序章
一、「旅」への不満
二、「旅」と「観光」
三、観光の時代と谷崎作品
四、本書の構成
第一部 挫折の旅程
第一章 「紙片」を再興するー「吉野葛」における歴史探訪と観光
一、はじめに
二、描かれない観光地
三、挫かれる旅路
四、「ウルシコシ」をめくる
五、おわりに
第二章 「御殿」を消却するー「蘆刈」における歴史へのまなざし
一、はじめに
二、「わたし」という観光客
三、「わたし」の歴史探訪
四、消失する蘆原と男たちの夢想
五、おわりに
第三章 「湖水」を継承するー「盲目物語」における琵琶湖と観光
一、はじめに
二、琵琶湖の喪失と観光地化
三、語りなおされる琵琶湖
補論 「計画」を彷徨するー一九三〇年代以前の作品における観光の輪郭
一、観光のゆらぎー中国体験と「秦淮の夜」
二、まなざしの外側ー「蓼喰ふ虫」
三、逆襲する無名ー「卍」
四、おわりに
第二部 凝視の路標
第四章 「陰翳」を凝視するー「東京をおもふ」と「陰翳礼讃」における思考の形態
一、はじめに
二、震災後の東京文化と復興神話
三、「オツ」精神と「ロマン的イロニー」
四、「陰翳」へのまなざし
五、おわりに
第五章 「雲間」を仰望するー「春琴抄」における閉塞と開放
一、はじめに
二、往還する閉塞と開放
三、閉塞の加速と近代大阪の煙害
四、隠蔽と伝達のあわいへ
五、おわりに
第六章 「蛍火」を探捜するー「細雪」における戦時下の観光
一、はじめに
二、国際観光政策と国土の商品化
三、観光による「敬神」と身体の統制
四、蛍狩りと彷徨する身体
五、おわりに
主要参考文献(「主要ガイドブックなど一覧」含む)
おわりに
主要人名索引