あらすじ・内容紹介
たとえば、広島地方では「たいぎい」という感情語が年齢・性別を問わず頻用されますが、「めんどうくさい・おっくうだ」という共通語では言い表せない語感をもっています。また、北海道や東北地方での「あずましい」も「落ち着く・心地よい」などといった共通語形とぴったりは重ならないのです。
そこで、恣意的な資料収集ではなく、共通の調査票に基づいて、各地の方言研究者に、それぞれの母方言域を中心に「感情語」の体系的な収集をしてもらい、その結果を県別に排列して考察してみようという意図で本辞典を企画しました。(中略)
感情語の体系については、先行研究を参考に、
(1)喜び・楽しみ・悲しみ・寂しさ・恐れなど、気分・情緒面での一次的感情
(2)羞恥・慙愧・感謝などの自我感情
(3)愛情・憐憫・憎悪などの他人に対する感情
(4)情操面での美的感情
と大きく四分類し、それぞれに項目を設け、質問文を示したうえで、その文脈全体を各方言に言い直してもらいました。質問文は、例えば、
面倒くさい 「そんな面倒くさいこと、したくはないよ。」
といった形式です。「面倒くさい」に対応する方言形を知るだけでなく、それを含む表現全体を見ることで、感動詞や強調の副詞、終助詞などに関する興味深い表現も収集されるはずです。
調査結果から、「嬉しい・楽しい」など、全国がほぼ同一の感情語で表現されるものや、「ちゅら(美しい) 沖縄」「せからしー(うっとうしい) 山口・九州」など、各地で特有の語が認められるもの、あるいは「とぜん(寂しい)など東北と九州で一致するものなど、興味深い分布のパターンが見出されました。掲載している分布地図や分布類型のところをご覧ください。また、感情表現ゆえに、強調のことばや感動詞を伴うことが多いのですが、それらも地域性豊かで興味深いものですので、注目していただきたいと思います。
感情表現は、感覚語、擬声語、擬態語(オノマトペ)、感動詞などとともに、大きくは、感性の表現として、捉えられます。本辞典は感情語にしぼった内容ではありますが、日本の豊かな言語文化とともに、地域・お国柄の違いなどを認識していただける、と思います。
(本書「はじめに」より抜粋)